ドラマに思いを馳せる
「感無量です。うれしすぎます。
おそらく今、世界で一番幸せな
サッカー選手なんじゃないかなと思います」
1月1日、元旦の国立競技場。
天皇杯終了後のインタビューで、中村憲剛選手はそう語りました。
この日、天皇杯優勝に輝いたのは川崎フロンターレ。
悲願の優勝でした。
そして中村選手は、この試合をもって
18年間在籍したフロンターレに別れを告げ、現役を引退しました。
実は中村選手、この試合には出場しませんでした。
試合後半、ベンチ横で数人の選手と共に
ウォーミングアップを始めましたが、
最後まで交代の声がかかることはありませんでした。
試合終了が近づいてきて、
中村選手が起用されないことがわかったとき、
私は、中村選手に同情してしまいました。
現役生活最後の日が、天皇杯決勝という大舞台。
最後、数分でもいいからこのピッチに立ちたいだろうに、と。
でも、そんなことを思ったのは、
お正月気分でなんとなく試合を見ていた
私くらいだったのかもしれません。
試合後、中村選手はこう言いました。
「勝ちが全てです。
勝利が全てということは、4年前の決勝敗退で、痛いほど味わいました。
こうしてチームが優勝する様子をベンチから見ていて
本当に頼もしかったです。
18年間の最後に、中村史上最高の1年間をみんなのおかげで送れました。
本当にありがとうございます」
そうか、彼らはプロなのだなと改めて思いました。
監督はもちろん、チームの選手たちも、
スタッフも、チームのサポーターも、
彼らが目指したのは「勝利」、天皇杯「優勝」。
この日が中村選手現役最後の日だということは
もちろん全員がわかっていました。
その中で、中村選手を起用しないという監督の決断と「思い」。
これを全員が理解したのではないでしょうか。
その思いを胸に、一人ひとりがプロとして戦い、
チームを「勝利」に導いたのだなと思い、感動しました。
「思い」と言えば、
今年も数々のドラマを生んだ箱根駅伝でも、
印象に残ったエピソードがありました。
青山学院大学のキャプテン、神林選手。
箱根駅伝で競技人生を終えると決めていました。
しかし、大会直前に骨折が発覚しました。
昨年1年、コロナ禍で思うように練習ができず、
チーム全体が肉体的にも精神的にまいっていたときに、
チームを引っ張ったのは神林選手だったと、
原監督は語っていました。
このチームは神林のチーム。
だから、競技人生最後の日、なんとか箱根を走らせたい、と。
大会当日、神林選手は、9区の飯田選手に
水を渡す「給水係」として、30メートルほど、箱根を走りました。
往路で12位まで順位を下げていた青学は、
復路で優勝。総合4位まで順位を上げてゴールしました。
原監督や神林キャプテンの思いを胸に、
復路の選手が奇跡の走りを展開した結果でした。
ああ、いいですね、スポーツ。
1月は、箱根や高校サッカーなどの
スポーツ観戦をしながら、表舞台のドラマにはもちろん、
舞台裏の出来事にも思いを馳せて、
毎年、テレビの前で感動しています。
でも、よく考えると、スポーツだけではなく、
様々なことに、そこに至るまでの
ドラマや思いがあるはずですよね。
いつも当然のように利用しているサービスや商品、口にしている食品、
それらが私たちの手元に届くまでにも多くの人が
いろいろな思いを込めているのだと思いました。
2021年、今年は、より想像力を働かせながら、
感謝を忘れずに過ごそう。
そんなふうに思いました。