エスキモーに氷を売る
1月に行っていた採用試験(作文)では、4つのテーマの中から好きなものを選んで書いて良いということになっていました。4つの課題とは、「エスキモーに氷を売る方法」「夏」「自分を売り込む広告」「B」です。
4つのテーマの中で一番選択する人が多かったのが、なぜか「エスキモーに氷を売る方法」でした。なぜなのか、この心理分析には興味があります。
類似のタイトル「エスキモーに氷を売る」という本をご存知の方は多いかもしれません。これは、全米バスケットボール協会で観客動員数が最下位だったニュージャージー・ネッツを、27球団中チケット収入伸び率1位に導いたジョン・スポールストラによって書かれたスポーツマーケティングの本でもあり、と、同時にマーケティングにおいて普遍的な(言い換えれば当たり前な)ことを書いた、そこそこ有名な本であると思います。
採用試験で取り上げておきながら無礼な話ですが、ワタシ自身は2週間ほど前の出張の新幹線の中で、遅ればせながらこの本を読んだ次第です。人にもよるのでしょうが、なかなかおもしろかった。
ジョン・スポールストラの考え方とワタシ自身の考え方には共通点もありました。一番身近に感じたのは、「一番近いところから手をつける」という考え方です。とかく「マーケティングのプランを立てる」「販促のプランを立てる」というとき、何かこう大上段に構えてしまって、壮大なプランを描こうとしがちです。既存の顧客とは違う新しいターゲット層を取り込もうと考えてしまったり、とにかく「派手」なことをやらなければいけないような強迫観念に陥ったり。
でも、そもそもマーケティングという知識体系は、最も経費対効果の高い売り方は何かを追求しようということから生まれたのだと思います。だとしたら、一番即効性があり、経費対効果が高いところから手をつけるべきでしょう。その手法としては、今現在のお客様に訴えかける。これがまず第一です。これまでに接触のなかったお客様への案内と、これまでに接触があり、その企業を良いと認めてくださっているお客様への案内とでは、レスポンス率がまったく違うからです。
著者の着眼点は、まさにそういうところにありました。もちろん、それ以外にも彼の優れた点はたくさんあります。商品開発力、発想の柔軟さ、損得勘定のベースとなる数字を捉える力、社内コミュニケーション力、等々。でも、やっぱり一番は、当たり前のことを当たり前にやろうとした姿勢です。当たり前のことが意外にも当たり前にできないのが人間社会なのであって、できるというのはスゴいことだと思うからです。それで、すっかりこの本を持ち上げたい気持ちになりました。
ワタシは、マーケティング嫌いの人にマーケティングの話をするとき、マーケティングは確かに専門的な体系ではあるけれど、本来ちょっと頭のいい人なら知らないうちに自然と考えていることだと話しています。なぜならお金を有効に使い、効率良く成果を出したいと考えるのは、極々自然なことですから。
そんな考えに賛同する人にぜひこの本をおすすめします。