勝間和代 VS 香山リカ
「あまりに前向きで、熱すぎるのは馴染めない」。
これは、当社の元社員が、あるビジネス関連の学校に通った感想として数カ月前にワタシに語った言葉です。
その学校には、さまざまな企業から、主として社長が教えに来ていたのですが、想像も含めて言うと、「自分はこうやってがんばってきた、君たちもがんばれ!」というような講演が多かったのではないかと思います。若い人たちに教える立場に立たされたら、ある意味、そうなるのは自然だと思いますが、彼としては、そういう熱すぎる講演に馴染めなかったのでしょう。
実は、その感覚、彼ほどではないにしても、ワタシも多少わかります。
ワタシの場合は理由は2つあって、1つはあまり押し付けられる感じは好きじゃないこと。説教はしたくもないし、されたくもない、というような感覚に由来するものです。考える材料を示されるのは好きなのですが…。
で、もう1つはただ単にノリの問題で、あまりストレートな熱血、ストレートな体育会、ただただ「オー!」みたいなストレートな感覚が好きじゃないからだと思います。(これについては、やや屈折していて、ある意味、ワタシ自身、体育会っぽいところはあるのですが)。
ま、それは置いておいて…。
最近、2人の作家の本を斜め読みしながら、彼の言った言葉を思い出しました。
1つは目下大人気の勝間和代氏著「ビジネス頭を創る7つのフレームワーク」、もう1つは、香山リカ氏の「しがみつかない生き方」です。
後者は、少し前まで「勝間和代を目指さない」というようなキャッチコピー&帯で話題になっていたようですが、勝間さん(あるいは出版社)からクレームがあったのか(どうかは知りませんが)、ワタシが買ったときの帯のコピーは別のものになっていました。
これまで、勝間さんの本は、売れていると知りながら、恥ずかしながら、目にしたことはありませんでした。
勝間さんは、今の時代の超人気作家であり、香山さんは20年近くコンスタントに物を書き、それなりの存在感を示し続けて来た人です。
とても興味深いのは、世代の異なる両者の価値観がまったく両極端にある点でした。
勝間さんは、ご自分の体験にもとづく成功の法則のようなものを読者に分け与えたいという想いからでしょうか、本当に惜しみなく自分のハウツーを紹介しています。
一方、精神科医の香山さんは、成功できる幻想を抱いて逆にダメになっていく人を医師として看ているからか、元々ご自身がそういう方だからなのか、「誰もがみんな、成功を目指す必要なんてないのではないでしょうか?」というニュアンスで、ハウツーやあるべき論というよりも、生きる上での「視点」のようなものを提示しています。そして、実際、そのような視点から、第10章は「勝間和代を目指さない」という内容の章になっています。(ワタシの印象では、タイトルはキャッチーですが、勝間批判というほど辛辣なことは書かれていません)。
しかし、これは、ワタシにとってはおもしろい発見でした。なぜかといえば、香山さんはワタシとほぼ同年代のバブル世代。勝間さんの方ははるかに若い世代です。バブル世代が「成功」を云々するなら、わかるのですが、若い勝間さんが、バブル世代のようなことを言っている。そして、反対にバブル世代の香山さんが、そこを突いています。これは、とても不思議な現象だと思いました。
そして、ワタシは、これはポストバブル世代、プレバブル世代というようなことではなく、もしかしたら、信長や秀吉の時代からあったことなのではないかと思いました。天地人を観ながら(笑)。つまり世代を超えて、ここは二極化しているのかもしれない、と。片や、自分の中にある、ある価値観を重視する絶対基準の人。片や他人と自分を比較して自分を位置づける相対基準の人。
勝間ファンは、とても多いようですね。前向きに熱く生きれば、彼女と同じように道が開けるのではないかという気持ちになる人は少なくないのだろうと思います。
でも、冒頭に書いたような「あまりに前向きで、熱すぎるのは馴染めない」人もやはり世の中にはいて、そういう人は、むしろ香山さんの考え方に共感するような気がします。
ワタシ自身は、押し付けられ嫌いなので、視点提示型の香山さんのような本の方にどちらかといえば好感を持ちますが、ワタシの周りから聞いていた印象より、勝間さんの本は内容があると感じました。でも、あの生き方を実践しようとしたら、疲労してしまうので、やりたいとは思いませんでした。(合理主義すぎて、あれでは疲れちゃいます。少なくてもワタシは…)。
書物というのは、つき合い方が大事ですね。100%鵜呑みにせずに、ある程度の距離を持って考えるゆとりがあるのが理想です。ではまた