[2010.12.20]
過去の経験にとらわれないための経営サーフィン
こんにちは。小野です。
12月20日の今日は、今年最後から2番目の記事になります。そんなわけで、今年1年間と自社の26年間を振り返りつつ、今という時代について感じていることを書きます。
かつて応用力は環境適応力だった
PR会社として発足したグラスルーツは、84年の創業から数年後に、いわゆるPR会社という立ち位置から広報系の企画制作会社へと軸足をシフトさせましたが、今もその原点にはPR会社の思想というものがあります。企業とステークホルダーとの間のより良い「関係づくり」を行うこと、それが使命でした。ご存知の方も多いと思いますが、PRという言葉は、Public Relationsの略です。
ここでは「関係づくり」と書きましたが、それは絆と言ってもいいし、ツナガリと言ってもいいし、Good Will(好意)と言ってもいいし、Sympathy(共感)と言ってもいいものです。
そうやってPR会社から出発した後、広報系企画制作会社として仕事をするうちに、世の中にインターネットが誕生し、当社もネット系のコミュニケーションついて対応するようになりました。一方で、クライアントのオリエンテーション段階で自社の打ち出し方を整理できていないケースが多いことからブランディングというサービスを加え、さらにブランディングを提供するうちに、今度は決定した経営意思を内部に浸透させることで困っている企業が多いことから、インターナルブランディングのサービスも提供するようになり、今日に至っています。
言ってみれば、社会の変化や顧客ニーズに合わせて少しづつ自社の事業を変化させてきたのです。そうやって20数年サバイバルしてきたのですが、やがて、これまでに経験したことのない大きな波が押し寄せてきました。これはワタシたちの業界のみならず、あらゆる業界にいえることだと思います。きっかけは、みなさんも記憶に新しいリーマンショックによってでした。2008年秋のことです。当時、100年に1度の大不況などと言われましたが、「不況」という言葉では語り切れないということをワタシも早々に理解しました。社会の構造が大きく変わろうとしているのだ、と。
正直なところ、これまでの少々の変化は「応用」で対応してきました。インターネットの誕生を含めて「少々の変化」と語るのは不適切な気がしますが、それでも応用力で適応できる範囲であったと思います。そうです。かつて応用力は環境適応力だったのです。
知識や経験をゼロリセットして新たな文脈をつくる
ところが社会構造の変化に適応するためには、「応用」という発想では適応しきれません。「応用」は原理原則と既存の経験値をベースとするのが基本ですが、これだけ大きく社会が変化するとき既存の経験値はむしろ発想の邪魔をします。だからこそやっかいなのです。
元来、原理を重んじ、応用で生き延びてきたワタシも、「今回の波は応用ではいかん」と思い、「頭をまっさらにして臨むべし」を経営の基本姿勢に、自分に対して頭の切り替えを課しました。たとえていうなら、頭の中のホワイトボードに長年書いてきた数々のことを潔く消し去る作業をしないといけない。なまじ四半世紀も会社を経営してきているので、その経験をリセットするのはかなり骨が折れます。しかも、そうやって頭をまっさらにしてしまうと(しすぎたのかもしれません)、今度はどこを起点に何時の方向に向かっていくのか、既存資産の何を核にし、何を変えるのか、自分の軸を定めるのに随分時間がかかりました。その軸については、今、ここでは書きません。
とにかくここ2年ほど、本、ネット、人から新たな知見を得ることに時間を割き、また新たな知見に影響されすぎていると感じたら、原点に戻るための本を読んだり…。と、まあ、「応用」を出発点にせず、ゼロベースで考えるというのは、ずいぶんエネルギーがいるものです。しかも、なまじこれまでの資産があるからなおさらです。仮にワタシが5年前に会社を創業した経営者であったなら、もう少し話は簡単だったのではないかと思ったりします。
しかし、そうやって勉強し、考え抜いていくと、自分が得た知見とこれまでの経験がふとしたことを境に自分のものになる瞬間がある。たとえば1冊の本を読んだだけだと、「ふーむ、なるほど」で終わってしまうことが、3方向ぐらいから同じような情報(時として異なる情報)を得たり、トライしたのにエラーしたりという経験をすると、自分なりの文脈でそれが理解できるようになります。
文脈がない段階の理解はただバラバラの知識があるだけであるのに対し、文脈ができると、情報と情報が結びついて頭の中に置かれるようになる。理解とは?ということを文脈という言葉を使って定義づけるのなら、「情報と情報、概念と概念を文脈をもって結びつけること」といえます。別の言い方をするなら、1冊の本を読んだだけだと単なる受け売りで終わってしまうことが、複数の情報源×体験になると咀嚼が必要になり、受け売りではなく自分の言葉になる、というようなことでしょうか。
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせである」「イノベーションは既存概念の掛け合わせから生まれる」などとよく言われますが、結局ワタシが至った結論もその原則に基づくものです。
ありゃりゃ…、ずいぶん長くなってしまいました。
経営というのは、いってみれば時代の波乗り。ワイプアウトせずに(ボードからコケずに)、この大波を乗り越えないといけませぬな。目の付けどころは悪くない。あとは戦術と体制。
なんとかなるという楽観主義は敵。しかも、何とかなるという楽観主義を味方にもしなくてはいけない。経営とは極めて奥が深いと痛感します。
来年が楽しみです。ではまた。