[2011.05.16]
「なぜマネジメントが壁に突き当たるのか」
日曜日の晩。仕事で忙しい週末を送ったので、本当は日曜日の夜ぐらいは、だらだらとテレビでも見て過ごしたかったのですが、一方ではここ最近インプットの量に対する不足感があって、結局、夜10時近くなってから、本を1冊読みました。田坂広志氏の「なぜマネジメントが壁に突き当たるのか」(東洋経済新報社)です。
元はといえば、この本は当社のあるディレクターが「半年以内に読みたい本リスト」に入れていた本でした。彼女の机の上にあったその本を、週末出勤した際に無断で借りてきたという次第です。自戒的に言えば、2時間45分で300ページの本が1冊読めるなら、週に2冊ぐらい読めよ、という感じです。
たくさんの感想があるので、一言でまとめるのは難しいです。なにしろ、最近感じていたことや最近起きたいろんな事象と、本に書かれていて「なるほど」と思ったことの組み合わせの数だけ考えるべきこと、感じたことがありますから。
とても、良い本でした。哲学書といってもいいぐらい、考えさせられました。
Before:心にあった背景
元々、ワタシの心の中にあった背景の中から2つをピックアップして、それをベースに感想を書くと。。。
最近考えていた疑問の第一は、「言葉」の本質とは何か、「言葉」でできることは何か、です。ワタシは、言葉のチカラで組織や人にチカラを与えることができるはずだという信念で仕事をしているのですが、その一方で、言葉ですべてが解決できるわけではないという事実も理解しています。自己矛盾とはいいませんが、もっと整理をしたいと感じていたのですね。
第二のワタシの個人的関心の背景は、ダイレクトマーケティング(特にエモーショナルマーケティング)で説かれている感情に訴えかける方法論について、なるほどと思うところがある反面、なんとなく人の感情を操るような「姑息」な感じがするという違和感があって、その整理をしたいという欲求もありました。
この本では、マネジメントというものの本質を、企業や人の心といった「複雑系」における「暗黙知」という切り口から解き明かしています。言い方を変えると、「ビジネスでは、すべてが論理で成り立っているわけではない」という前提のもとに、非論理性、たとえば直感や信念、感情や相性といったことがむしろビジネスでは重要となることが少なくないと説いています。
After:整理できたこと
さて、ここからが感想です。
この本を読んで、暗黙知と言語知の関係は、感受性と論理性の関係に限りなく近いものだと改めて納得したものの、では言語が使われながらも、暗黙知的なコミュニケーションはないのかと考えてみると、「ある」とワタシは考えました。
たとえば、たった1行のセンテンスから得られる、人生を変えるほどのインスピレーションというもの。あるいは、一言も「愛している」とも「好きだ」とも書いていないのに感じ取れる、溢れんばかりの愛情。これらは、この本で語られている暗黙知に極めて近い役割のものだと思います。言葉というのは、論理的な語り方にも、感覚的な語り方にも使える道具です。けれど、人の心を動かす言葉は、ここにも、そこにもあるというわけではありません。そんなに生やさしいものではない。だからこそ、そこに生涯をかけてもいいと思える奥深さがあるのだと感じました。
ワタシの2つめの問いに対して、この本は的確な答えを与えてくれました。以下、引用です。
従って、ここで私が述べようとしているのは、「いかなる操作主義や計算も持ってはならない」という潔癖主義的なマネジメント論ではありません。(中略)私が述べているのは、「己のエゴが見えているか」ということなのです。
特定の人や不特定多数の人とうまくコミュニケーションをしたいと思ったら、誰しもどうしたらうまくわかりあえるのか、自分をわかってもらえるのかと考えます。それ自体は悪いことではない。けれど、エモーショナルマーケティングで陥りやすい人の感情を支配しようというような価値観に陥らないこと。そのセルフチェックがかけられるかどうかが重要なのだと学びました。
しかも、これは外部に対するマーケティングの心構えとしてだけではなく、社内スタッフとのコミュニケーションにおいても、必要な姿勢ですね。ワタシは、どちらかといえば自分のエゴを押し付けないようにとセーブしているつもりですが、それでも振り返ってみると、「あれはエゴだったかな」と思うようなこともあります。
読む前にあった背景的要素はこの2点以外にもありますが、書くと長くなるので、今日はやめておきます。
繰り返しになりますが、生き方を考える参考になるほどの、とても良い本だと思いました。お時間があれば、ぜひ読むことをお勧めしたい1冊です。
ではまた