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Living Together〜HIVを考える

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 昨日の晩、新宿で開催された「Living Together」というイベントに行ってきました。このイベントは、「HIVを持っている人も、そうじゃない人も、ぼくらはもう一緒に生きている」という視点で、HIV陽性者やその周りの人によって書かれた手記を様々なゲストが朗読するというイベント。今回ですでに第83回と継続して開催されており、毎回、音楽のライブも行われているようです。

グラスルーツの卒業生、ヤマガミくんの活動

 実はこのイベントのゲストにグラスルーツの元スタッフであるヤマガミくんが招かれ、リーディング(朗読)のパフォーマンスを行うというので、ちょっとした母心で覗いてきた次第です。母心といえば聞こえはいいですが、照れくさがる彼から「来なくていいですよ」と言われれば、よけい嫌がらせ?で覗きたくなるではないですか(笑)
 イベントには当社のディレクターのNさんや元ディレクターのYさんも来ていて、二人ともワタシと同様、弟分のヤマガミ君を冷やかしつつ心の中に横断幕を持って来ていたのだと思います。三人して「こりゃ、授業参観の親の心境だね」と言って笑い合いながら、彼の出番を待っていました。

 イベントでは単なる手記の朗読だけではなく、HIVについてリアリティを持って受け止めるという趣旨からか、朗読の前後にそれぞれの朗読者が自分の考えや体験を語るという構成になっていて、ヤマガミくんが何を語るのか、どう語るのか、身内的な心境ではらはらドキドキしたのであります。

 話は少し飛びますが…。このブログでも以前紹介しましたが、ヤマガミくんは現在、表参道にある「gossip」というゲイフレンドリーなカフェの店長をしていて、様々なアートイベントを手がけています。彼自身は素敵な彼女がいるストレートです。「gossip」自体もゲイの人専門のお店というわけではないのですが、お店のお客様から「ヤマガミさんはゲイなのですか?」と聞かれることも少なくないそうです。先月行われた「gossip」の1周年パーティのスピーチで、彼は「自分はゲイではないけれど、ゲイかどうかなんて、どうでもいい小さなことだと思う」ということを語っていたのが印象的でした。

 そんなヤマガミくんが語ったのは、彼のお兄さんのことでした。自分が今の店で店長を引き受けているのはなぜなのかを考えてみたときに、無関係ではないと思ったようです。子どもの頃からダウン症の兄が身近にいるという体験と絡めて、周囲の偏見と自分の心の中にあったある種の葛藤や逃避について、等身大で語ってくれたのですが、「素」で語った姿にちょっと感動しました。少しだけウルっときました。
 HIVにしても、ダウン症にしても、ゲイではないのにゲイフレンドリーな店の店長をしていることにしても、「あたたかなイイ話」のようにま〜るくまとめようとすることには違和感があるし、こんなに大変なんだぜ的な捉え方にも違和感があるので、お兄さんの話をここですることには躊躇があったと彼は言いました。また、自分にはゲイの友達がいる、自分の兄はダウン症であるという話をしたときに、多くの人はイメージが画一的になっているので、それぞれに実像は異なるのだと伝わるように会話したい、とも。その場の話の内容を書いても切りがないですね。このくらいにしておきます。

経営者としてぶつかった「問い」

 さて、このイベントを通じて、経営者としてちょっと考えさせられたことがありました。ヤマガミくんが読んだ手記はユウジさんという方が書いたものでした。採用面接で言おうか言うまいか迷いながらも「HIV陽性」であると語ったところ、面接官であった女性が引いていった様子とそのときのユウジさんの心模様が綴られていました。

 皆さんもご存知かもしれませんが、HIVの陽性だからといって、空気感染するわけでもなければ、キスして簡単に感染するわけでもありません。HIVとエイズもまた別物です。そう理解しているワタシも、もし採用面接で「HIV陽性」と言われてノープロブレムと思えるかと自問したときに、ワタシ自身、簡単に答えが出ませんでした。実は、今も答えは出ていません。

 ここから先は誤解を恐れずに書きますね。
 HIVとインフルエンザを同等に扱うのはどうかとは思いますが、こういった感染性のある病について、ワタシなら経営的には2つのことを考えます。敢えて身近なインフルエンザを例に書きます。
 第一に、リスク管理的な視点。社員がインフルエンザにかかったら、出社させずに待機させ、感染を防がなくてはならないという視点です。しかし、HIVの場合、インフルエンザよりも感染のリスクは相当に低いので、論理的にいえば、これはほぼクリアされます。が、元来、感染性のものであることには変わりないので、リスク管理の視点は意識せざるをえません。
 第二は、風評的な視点。インフルエンザにかかった社員が出た場合のその企業の対応の善し悪しによる、信頼性への影響という視点です。コントロールしようとしなかった企業への信頼は失墜します。情報の開示と信頼関係というテーマで問題をとらえる必要があるとワタシは思っています。

 ところが、問題はHIVの場合、感染という意味でのリスクは実は低いにもかかわらず、高いと思っている人が多いために、風評的インパクトが大きいという点です。ヤマガミくんが読んだユウジさんの手記では、採用面接時に「HIV陽性」と伝えるべきかどうかという逡巡が語られていましたが、BtoBのサービスを提供している当社の場合、仮に担当者がHIVであったなら、クライアントに対してそれを告げるべきかどうかという判断に迫られます。いや、それよりも前に、クライアント担当者にするべきか、バックオフィス的な担当者にするべきかの判断をしなければなりません。何を基準に、どう判断したらいいのか、率直に言って判断できる自信がありません。もっといえば、面接に来たある人がたまたまHIV陽性の人だったときに、本当はHIV陽性でなかったとして適任者ではない場合、普通の判断としてNGはNGのはずなのですが、もしHIV陽性者であると聞いていたら、なんとなく言い訳したい心境になるような気もします。実は、以前、当社の求人に障害者の方(車いすの方)が応募してくださいました。そのとき、当社の求めるスキルや人材像とその方のそれがマッチしていなくて、採用できないことがありました。そのとき、「あなたを採用しなかったのは、車いすのせいではない」と言いたいような、なんともいえないエクスキューズの心境に陥りました。また、「適任者でない」という判断をするにしても、HIV陽性者であることが本当に影響しなかったか、自信を持って答えられるかどうかに自信がありません。
 ですから、敢えてインフルエンザになぞらえて書いたものの、HIVとインフルエンザとではやっぱり状況は決定的に異なっており、手本にするサンプルがないのが現実なのです。

 こういった自問に対して、答えは今は見つかりません。でも、こうした問題があることを直視しようと思ったこと、現実のこととして考えようと思ったこと。突きつけられた感じではありますが、それがイベントに参加して得られた収穫でした。母心で参加したつもりのイベントでしたが、HIVについて考える良い機会をいただきました。そして、ヤマガミくんのパフォーマンスを見て、とても誇らしかったです。ありがとうございました。

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ブログを書いている人

小野真由美

グラスルーツの代表。組織をただの集団ではなく、チームにするための組織内コミュニケーションはどうあるべきだろう?…なんていうことを、いつもツラツラ考えています。ブランディングやコミュニケーション、チームやリーダシップ系の話題が7〜8割、その他の話題が2〜3割。そんなブログを目指します。ぜひおつきあいください。

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