ノウハウとは「考え方」「やり方」「ツール」の統一的な再現性
昨日、テレビ朝日の「池上彰の学べるニュース」を見ていたら、久しぶりにアート引越センターのテレビコマーシャルを見ました。今年の初めに、このCMを見てインスピレーションを感じたことを思い起こしたと同時に、この機会にもう一度、あの時の気持ちを肝に銘じておこうと思いました。
CMを観て感じたことは年初のブログに書いたのですが、その後、今年の1月から3月の途中までの間のブログ記事がサーバトラブルにより消失してしまいました。ですので、リセットしてもう一度その時に感じ、今も思い続けていることを書きたいと思います。
今年の11月29日でグラスルーツは満28周年を迎えます。長く続いてきたのは良いことなのですが、28年間会社を経営する中で、ワタシの中にはずっと大きなジレンマがあったのです。それは、「属人性」という問題でした。企画やコンサル、制作の世界では、一般に担当者のやり方や力量によってアウトプットの中身も結論に至るプロセスも変わると言われてきました。お客様の状況がそれぞれ異なるだけに、統一的な方法を取りにくいというのがその理由です。また、「各自の個性が出せる」という理由で入社してくる人が多いことも少なからず関係しています。
たとえば…。ある土地の所有者がその土地に家を建てたいと言って2人の建築家に提案を依頼したとします。出てくる案は建築家ごとに、もちろん、違います。むしろ、別の案が出てくることを期待されているのだから、統一的にするというのは本末転倒だと長い間思われてきました。そして、それは普通に考えたら、その通りなのです。だからこそワタシの中にも「属人性から脱出できない業界」という思い込みがありました。そして、そのような業界に、果たして発展性というものがあるのだろうか、というのが、ワタシの長い間のジレンマでした。
しかし、アート引越センターのコマーシャルを見ていて、ふと疑問を抱きました。引越業界だって属人性の強い業界だと思われていたのではないか、と。そのコマーシャルは、引越で起きがちなトラブルを避けるために、様々なノウハウを駆使しているということを語っていました。それを観て、各自の個性は生かしながらも、会社として統一できることはまだまだあるはず、そのように今年の年初に考えたのです。出すべき答えはマニュアル化できなくても、答えを出す過程を統一化したり、マニュアル化したりできるのではないか、と。心の中にあった霧が晴れたような気持ちでした。
そして、最近、ある企業の社内報制作の業務効率化のコンサルをしていた中で、このように考えました。私たちが当たり前のように行っていることが、実は世の中では必ずしも当たり前ではなく、一つのノウハウなのかもしれない、と。
しかし、ノウハウというのは再現性のある形で受け継がれてなんぼです。クライアントから「なるほど」と思っていただけることが、社員全員で再現できなければ、まだ企業としてのノウハウが確立できているとは言えません。考え方とやり方とツール、この3つの要素を明確化することで、いろいろな人の優れたやり方が会社全体のやり方に変わっていくということはありえる。グラスルーツの今後の可能性はいろいろな角度から考えていますが、この「属人性からの脱出」という視点もそのひとつ。とても重要な視点なのではないかと考えています。だからこそ、グラスルーツは、丸投げしてOKの個人プレーヤーを束ねているだけの組織なりたいと思いませんし、組織立ってノウハウを蓄えていくようなチームプレーヤー志向で進んでいきたいと思います。そして、ノウハウを形づくる3つの要素(考え方、やり方、ツール)によって再現性を保ちながら、担当者の個性を生かしたサービスプロセスと結果を提供すること。それがワタシの目指す世界です。
ありがとう、アート引越センター。一つの大きな学びを得ました。